キサラギ
2007年の日本映画。主演 小栗旬。脚本 古沢良太。
(C) 2007「キサラギ」フィルムパートナーズ
1年前に自殺したアイドル如月ミキの一周忌追悼会に集まった5人のファンの男が,彼女の死の真相を解き明かす話。
あらすじ
2007年2月4日
屋上にある倉庫のような部屋に大荷物を持って入る青年がいた。彼は,パーティーの準備をするかのようにテーブルに紙コップや紙皿を数人分準備していた。
彼は少し前に「家元」という名前で「ミキちゃんを応援する掲示板」というページに次のメッセージを投稿していたのだ。
タイトル 2月4日の件
安男さん,オダ・ユージさん,スネークさん,いちご娘さん。
是非参加してください!
ささやかですがミキちゃんを愛する者同士盛り上がりましょう。(^▽^@)ノ
2月4日 お待ちしております m(_ _)m by 家元
彼はアイドル「如月ミキ」のファンであり,彼が準備をしていたのは
「~永遠の清純派グラビアアイドル~ 如月ミキ一周忌追悼会」
を開くためだった。
参加者が全員そろったところで彼らは、追悼会を始めた。
普段はしがない公務員だが,如月ミキに関することならだれよりも詳しいと自負している家元。福島で農家をやっている安男。雑貨屋で働いているスネーク。この会を最初に提案したオダ・ユージ。無職のいちご娘。
それぞれ自己紹介を終えると、さっそく家元は、自慢の『如月ミキ パーフェクトコレクション』を彼らに見せた。
そして家元は,さらにとっておきの如月ミキ直筆の手紙も見せた。彼が3年間毎週送って計200通は書いた,ファンレターの返事である。漢字が異常に少なく,代わりに誤字脱字が異常に多いことから,本人のものだという説にみんな納得していた。
手紙にはこう書いてあった。
家元さんのお手紙にいつも励まされています。
お仕事で辛いことがあっても,家元さんのお手紙を見ると,お仕事ガンバロー!と思えるんです。ミキの命より大事な宝物です。
書いてある内容はお世辞だと言われるが,本人が書いたことが大事だと家元は答えた。
その五人は、それぞれが違った経緯で彼女を好きになり、立場も様々であったが、みんな如月ミキが大好きだという点では同じだった。
しかし、彼らが如月ミキの良いところの話をしていると,いちご娘はなぜか突然泣き始めてしまった。
そこへオダがほかの四人に尋ねたのだ。
「去年の今日,如月ミキはなぜ自殺をしたと思います?」
オダはいつも笑顔だったミキが自殺をしたことや,その不自然な死に方に疑問を持っていた。そしてオダは続けてこう言った。
「私はこの1年間,事件についていろいろと調べてきました。そして得た結論,如月ミキは自殺なんかしていない。殺されたんです」
2007年2月4日,如月ミキが亡くなって1年後の日。
彼女を偲んで彼ら5人が集まったことにより,1年前の彼女の死の真相が少しずつ明らかになって行く。
感想(ネタバレあり)
ストーリーについて
最後まで少しずつ出していた,自殺とは関係ないような話の内容で,どんどん死の真相に近づいていく様子が凄く面白かったです。特に,序盤に出したファンレターの伏線が1番最後の1番いいところに活かされたのがとっても好きです。
伏線が多すぎて,もはや伏線じゃない話がほとんど無いくらいでした。でも,その使い方は割と簡単なので理解しやすかったです。
むしろ家元たちが出そうとしてる結論を,私の方が先に気付いた場面もあって,うれしくもなりました。
推理物は,探偵役の推理を聞いて初めて,伏線の意味を理解するものが多いと思いますけれど,こういう自分で考えて先に分かる,というのも見ていて楽しいです。
自分が1番如月ミキに関係ないと,しょんぼりしていた家元が報われる結末で良かったです。
知り合いとか,直接会って話した経験が全くないのに,他の人に負けない気持ちを持っていた家元さんが,アイドル如月ミキの一番のファンだと私は思います。
ミキの手紙の「命より大事な宝物」という言葉がお世辞じゃなく,本当に火事になった時に取りに戻ったのかも,ということを聞いた時,私は嬉しくて泣いてしまいました。
でも,如月ミキのためを思ってみんながやった行動と,家元の気持ちを思って如月ミキが行動した結果が引き起こした,悲しい事故でしたね。
それから,中盤でオダ・ユージさんが
「ミキをスターにしてやりたかった。あんたらだってミキをスターにしたかったんだろ。このまま消えてよかったって言うのかよ。」
といった答えに家元さんたちが
「良かったですよ。売れずに引退して,田舎の主婦になって,そういうミキちゃんを遠くで静かに応援してたかったです。いつまでも。」
と返した時にもグッと来ました。
家元たちが人気者に集まる軽いファンじゃなくて,本当に彼女の幸せを思って大事に考えているというのが伝わってくるセリフでした。
私も長い間ファンの芸能人がいますけれど,その人が結婚してメディアに出なくなっても幸せに過ごせていればそれでいいと,彼らと同じように思います。
最後のエンディングの映像もよかったです。如月ミキの曲「ラブストーリーはそのままで」の映像を見ながら本当に楽しそうにみんなで踊っている様子が面白かったです。
2回目以降の視聴について
私はこの映画何度も観ているんですけど,本当に何度観ても楽しめます。
1回目は彼らの素性が知れないので,セリフをそのまま受け取って後で正体を明かされたときにびっくりすることになるんですけど,2回目は正体を知っているのでまた違った楽しみができるんです。
正体を明かす前に,彼らのあの日の行動に関係する話や,彼らの素性に関わる話が出ているんですよね,家元さん以外は。そんな時に,その話をされた人は少しいつもと違う反応をしたり,ちょっと挙動不審になったりしているんですよ。
1回目は話している人のことしか見ていませんから気付きませんけど,2回以上見ることで,そういう細かいキャラクターの心情について考えることができて,面白いです。
特にいいと思ったのは,香川照之さんが演じるいちご娘です。1回目に見た時は,おじさんなのにいちご娘でカチューシャつけてて面白い人だなと思っていました。そして,如月ミキの昔の話をすると泣いていたので,本当に大ファンだったんだなと思った程度でした。そして,父親だと知った時にすごくびっくりしました。
しかし,2回目に見ると彼が抱える悲しみが見えてきて切なくなりました。
1回目にただの面白い人だと思っていた人は,亡くなってしまった娘のことが好きだったファンの人と,楽しくその娘の話をしに来たお父さんだったんです。
なのにその娘が自殺した時の思い出したくもないことを目の前で話し合われるんですから,嫌だと言うのも,聞きたくなくて耳をふさぐのも当然ですよね。いつも笑顔だったという話を聞いて泣いていたのも,ファンとしてだけではなく父親としてでもあったんだと思うと,すごく悲しいです。
まとめ
伏線の回収が本当に爽快感があって凄い映画です。2回以上観ても楽しめるぐらい細かいところまでつくられた映画なので,1回観た人でも機会があればまた観てほしいです。
私は映画に順位や点数を付けるのはできない性格なんですけど,この映画は「1番好きかもしれない」うちの何本かに入るぐらい好きです。
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