アルゴ
2012年公開のアメリカ映画。日本でも同年公開。監督、主演 ベン・アフレック。
(C) 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
反米デモの影響で国外に出られなくなった6人のアメリカ人を助けるために、架空の映画をでっち上げたCIAたちの話。1979年から1980年にかけてイランで起こり、18年間機密扱いとなっていた事実を基にした物語。
あらすじ
1979年
イラン革命の影響でアメリカへの反発を強め暴徒と化したデモ隊が、在イラン米国大使館を襲撃し占拠した。
そこで働いていたアメリカ人職員は、全員がデモ隊の人質として捕らえられたものと、誰しもが思っていたが、大使館にいた約60人の職員のうち6人だけが裏口から脱出し、カナダ大使邸に保護されていたことが、後日分かった。
それは、アメリカ国務省にとって必ずしも朗報というわけではなかった。大使館には全職員の顔写真付き名簿が保管してあったからだ。もちろん、侵入前にシュレッダーにかけられてはいたが、それが修復されてしまえば、6人のアメリカ人が大使館から脱出したことも、彼らの顔も知られてしまう。もし、その後イラン革命防衛隊に見つかれば、彼らは公開処刑される恐れがあったのだ。
最悪の事態を防ぐために、国務省はCIA所属、人質救出作戦のプロであるトニー・メンデスを呼び出した。
素人の国務省が提案した作戦をトニーはすべて却下した。普通の状況でないイランでは、まともな作戦を使うとかえって怪しまれる恐れがあったからだ。
トニーが考えた作戦は、SF映画の製作話をでっちあげ、6人を偽映画のロケ地を探すカナダ人クルーに仕立て上げる、というものだった。
しかし、ちゃんと体裁を整えなければイラン革命防衛隊を信じさせることはできない。偽物の映画製作にも、脚本やプロデューサーは必要だった。トニーはハリウッドで特殊メイクをしている知り合いや、有名プロデューサーの力を借りて、偽映画製作の準備を始めた。
積み上げられたいくつもの脚本案の中から、トニーは一つの本に目を付けた。
そのタイトルは『アルゴ』。中東のような風景の地が舞台のSF冒険映画だった。
その後もトニーは映画製作の準備を進めた。製作会社、名刺、ポスターを作り、さらには脚本を基に絵コンテを作り、マスコミに向けた製作披露の記者発表まで行った。
アメリカでの偽装工作を終えたトニーは、イランにいる6人に演じさせるための役割とその設定を決め、彼らを救うために単身でイランへと飛び立ったのだった。
世界が注目している街から、誰にも気づかれずに6人を連れ出す。のちに機密扱いとなる、CIA史上最も大胆な救出作戦が始まろうとしていた。
感想(ネタバレあり)
国際的な政治問題の裏側にあった事実を基にした話だということなので、観る前は難しそうな話かもしれないと思っていたのですが、人質が捕まるまでの経緯がとっても分かりやすくて良かったです。最初のシーンで一気に説明されただけでも、何となく分かった気になれました。
実際にはさらに難しくて、いろんな立場の話を全部描くと、とても分かりにくくなるのだと思います。ですが、CIAが活躍するその後の物語を楽しむ上での、最低限必要な知識を分かりやすく説明していたところが、多くの人が楽しめる映画として、すごく良かったなと思いました。
正直、イランとアメリカの状況を全く理解していなくて、ちんぷんかんぷんな人でも、スリリングな娯楽作品として十分楽しめる映画だと思います。でも、分かっていたほうが面白いと思います。トニーが映画製作を仕立て上げている間に、イランの状況が悪化していることを、テレビやラジオで報告させられるシーンでは、実際の事件をあまり知らない私でも結構焦りました。なので、知識がある人ならば、その展開もイランに行った後の展開も、もっとスリリングに感じられたと思います。
劇中には、本当にできるの?って思う疑わしい場面もありました。もちろん脚色はされているのでしょうけれど、実話を基にしていることを売り文句にしているくらいですから、実際にできたことが多いのだと思います。何より、一番嘘っぽい、偽物の映画作りをでっち上げるというのを、本当にやっていたというのが驚きでした。
大使館の職員たちが役割の人物設定を暗記する、というのが一番難しそうでしたが、それは実際にやってそうでした。人間、命がかかっている場面でなら、実力以上のこともできるのかもしれません。
しかし、それらが成功したのは、彼らを助けるために頑張っていた人たちの、立派なプロ意識と人格のおかげだろうと、私は見てて思いました。
登場人物について
この映画のCIA側の登場人物は、みんな全力で大使館にいた6人全員を助けようとしていた、とても良い人たちでした。
ハリウッドのチェンバースとレスターは、彼らを助けるために本気で映画作りに協力していましたし、カナダ大使のテイラー夫妻も、危険を承知で匿っていたとても良い人でした。
CIAの人たちを含め、彼らが少しでも手を抜いていたり、諦めていたら、作戦は成功しなかったのではないかと思います。
でも、やっぱり一番かっこいいと思ったのはトニーです。
国務省やホワイトハウスの言うことを聞いたほうが、トニーにとっては絶対に楽な場面なのに、イランにいる6人を脱出させるためにそれらに逆らってまで、自分が信じる行動をする心意気がかっこよかったです。一般人なら絶対にできないようなことを平然とこなしている姿も、渋くて良かったです。パスポートのスタンプを手書きで偽造しているところは普通に驚きました。
個人的に好きなのは序盤のシーンで、離れて暮らしている息子さんのイアンと電話で話すところです。イアンに何のテレビを見ているか聞いて、自宅にあるテレビをそのチャンネルに合わせてから話し始めるところは、少しでも子供と共有しようとしているとっても優しいお父さん、という感じで心に残りました。手紙を書くシーンも良かったです。ストーリーとしてはほとんど関係のない部分ですけれど。
ベン・アフレックさんの声ももちろん良いですが、吹き替え版では森川智之さんがトニーを演じられていて、それもまた違ったかっこよさがありました。
こんなかっこいいキャラクターならば、監督をしながら主演をやりたくなる気持ちも分かります。実際に主演をすることになった経緯は知りませんが。
カルチャーショックについて
事前勉強がなくても普通に楽しめる映画ではありましたが、舞台が日本でも現代でもないので、カルチャーショックを受ける場面は結構ありました。
大使館に侵入されそうになった時、職員はあんな風に書類を処分するのか、とか。当時のイランの状況とか。こんな大胆な作戦がうまくいったこと自体もそうですし、あんな方法で偽造パスポートを作っていたことも驚きでした。CIAの有能さにはその都度ビックリしました。
こんな事件やこんな時代があって、こんな人たちが本当にいた、ということが、どれも現代の日本では想像できないことばかりで、驚くことが多かったです。
もちろん多少の脚色はされているのですが、それらに興味を持って知る機会になれたというだけでも、私はこの映画を観て良かったと思いました。単純に面白くも観れましたけど。
何より、こんなにも立派なことをした人たちが、多くの人の目に触れることになったのは、良いことだと思います。
まとめ
実際にあった国際問題を扱っていますが、すごく分かりやすくて面白い話でした。史実に詳しい人なら、より楽しめる話ではないかと思います。
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