アメリカン・スナイパー
2015年公開のアメリカ映画。日本でも同年公開。出演 ブラッドリー・クーパー。監督 クリント・イーストウッド。
©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
米軍史上最強と言われた伝説の狙撃手、クリス・カイルの半生の映画。イラク戦争での活躍の裏で、PTSDに苦しむ彼と家族の様子が描かれる。
あらすじ
テキサスに生まれたクリス・カイルは、厳しい父親にライフルを使った狩りを教わりながら育った。クリスの父親は、次のように言って彼を育てていたのだ。
世の中には『羊』と『狼』と『羊の番犬』の3つのタイプの人間がいる。弱いものを襲う狼と、自分を守れない羊と、羊を守る力を持った番犬だ。この家に生まれたからには、愛するものを守る番犬になれ。
彼は大人になって、国に尽くすために海軍の精鋭部隊シールズに志願した。そして厳しい訓練に耐え抜き、正式にその隊員となったのだ。
同じころ、彼はタヤという女性に出会った。クリスはシールズの狙撃訓練を受ける日々を送りながら、彼女との仲を深めていき、しばらくして結婚することになった。
そしてタヤとの結婚式の日。結婚式をしていたその場で、戦地へ向かうための招集がかかった。
クリスにとっての初めての実践の地は、中東の西部にあるファルージャという都市だった。彼はその戦いで狙撃手としての才能を開花させ、多くの戦果を挙げた。味方からは『伝説』と呼ばれて英雄視される一方で、敵からは『悪魔』と恐れられ、多額の懸賞金までかけられるようになったのだ。
その数週間後、戦地での激しい戦闘を切り抜けたクリスは、アメリカに帰国してタヤの元に戻ることになった。
しかし、イラクで常に緊張状態にあったクリスが、すぐに穏やかな日常に戻ることは容易ではなかった。
イラクでは今も仲間が死んでいる。しかし平和なアメリカからでは何もできない。そんな状況に我慢できなくなった彼は、出産を終えたばかりのタヤをアメリカに残し、仲間たちを守るために再び戦場へと向かうのだった。
感想(ネタバレあり)
緊張感いっぱいの戦場と、平和な日常が流れているアメリカとの緩急の差がとても激しくて驚きました。
本当に戦地に行かれた人の気持ちは、画面を見ているだけの私に分かるわけありませんが、戦場にあったような音に敏感になってしまうことに関しては、少しだけ分かった気がしました。戦場のシーンのほんの数分後に、急に穏やかな場面に変わるので、私もその変化には少しついていけなかったです。バラバラという銃声みたいな音を聞くとビクッとしましたし、ドリルの音を聞くと戦地での場面を思い出してヒヤッとしました。
実際の彼のことを映画で観るまで知らなかった私は、最後までどうなるのか気になってとても引き込まれましたし、観終えた後もいろいろ考えさせられました。
クリスが何度も戦地に行かなければ。あれほど心を蝕まれることもなく、奥さんや子供たちともっと一緒に過ごせていたのでしょう。けれど、凄腕のクリスだったからこそ、助けられた命がたくさんあったかもしれません。そう考えると、行かなきゃよかったなんと思えません。なによりも、クリス自身がそれを自覚しているのが、彼が変わってしまった一番の要因だと感じました。
タヤがクリスと初めて会った時、傲慢は身を滅ぼすと彼に言っていましたが、彼がもっと謙虚に考えることができる人だったら、そこまで心を蝕まれることも無かったのかもしれません。実力が伴っている自信のことを傲慢とは言わないかもしれませんが。
アメリカの人はヒーローが大好きだと言われていますし、私もヒーローは好きですが、そんな考え方もやはり行き過ぎは良くないと感じました。引き際が大事です。
結局は、戦争が無いのが一番ですけれど。
全体的に重めな話でしたが、スナイパーの勝負は比較的わかりやすくドキドキして楽しめました。
ストーリーについて
冒頭でクリスのお父さんが言っていた羊と狼と番犬の話が、映画として考えると、とても興味深い要素であり、現実として考えるととても難しいことだと思いました。番犬と狼の違いが立場や行動で簡単に逆になることや、相手も番犬かもしれないことを考えると、とても難しいです。
戦争になると、実際に戦うのは狼と番犬になるわけですが、守られる側の羊も無関係だと思っていてはダメなんだと思わされました。
国を守るためにあんなに頑張って苦しんでいる人がいるのですから、守られている人はもっと知るべき。番犬をなるべく狼にさせないように、勉強してできることはするべきだと感じました。
劇中でも、イラクで戦争をしている一方で、アメリカの人はそれに無関心な様子が描かれていましたが、その無関心さがクリスを死なせた一因になったかもしれないと私は考えました。クリスがPTSDに苦しんでいた元兵士に殺されたのなら、戦地から戻ってきた彼らを迎えるためのサポートと理解がもっとあれば、避けられたのかもしれません。
そう思うと、今も世界のどこかで争いが起きている時代に生きている私たちは、直接それにかかわっていなくても、知るべきだと思います。何のために誰が戦っていて、どんなことで苦しんでいて、自分に何ができるのかとか、実際にすぐに行動しなくても、考えていればいざというときに動きやすくなると思います。
何でも人任せは良くないと改めて考えさせられました。
映画の物語と直接の関係はあまりないですが、名探偵のコナン君も劇中のクリスと同じように、日常生活の中での些細なことを殺人と関連付けて見ている傾向があると思います。あの子ももしかしたら、殺人事件を見すぎていて心を蝕まれているのかもしれないと、変な考え方をしてしまいました。
まとめ
緊張感のある戦場の描写にとても引き込まれました。平和なアメリカとの差についていけない気持ちを少しだけ味わった気がしました。
ブラッドリー・クーパーさんが実写で出ている映画は、私は『ハングオーバー』しか見たことが無かったのですが、別人みたいに真面目な役で驚きました。
この作品を観た人へのおすすめ