グリーンブック
2018年公開のアメリカ映画。日本では2019年公開。出演 ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ。監督 ピーター・ファレリー。脚本 ニック・バレロンガ。
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1962年のアメリカを舞台に、黒人天才ピアニストのドン・シャーリーが、イタリア系アメリカ人の乱暴者を用心棒として雇い、二人で旅をしながら差別意識の強かった当時の南部でコンサートツアーをする話。ドン・シャーリーの実話を基にした物語。
あらすじ
時は1962年。ニューヨークのクラブで用心棒として働いていたイタリア系アメリカ人のトニー・リップは、ガサツで乱暴者だったが、喧嘩の強さとハッタリを生かした問題解決能力は、周りから高く評価されている男だった。
しかしある日、トニーが働いていたクラブが改装のために閉店することになり、彼は一時的に仕事を失ってしまった。妻も子供もおり、決して裕福な暮らしをしていなかった彼は、新しい仕事を見つけてクラブが再開するまでの生活費を稼がなければならなかったのだ。
そんなトニーに、ある仕事の話が舞い込んできた。
雇い主は世界的に有名なコンサートホール『カーネギーホール』の上の階に住む、ドクター・シャーリーという名の黒人ピアニストだった。ホワイトハウスで演奏した経験もある著名な彼は、トニーとは対照的な豪華な生活をそこで送っていたのだ。
シャーリーがトニーにさせたい仕事は、彼のツアーについて行く運転手兼用心棒だった。黒人の彼は、人種差別の文化が濃い南部での演奏ツアーを計画していたため、何かあった時のために問題解決能力の高いトニーの力を必要としていたのだ。
8週間という長いツアーだったので、トニーは家族のことを思って少しためらったが、待遇が良かったためにその仕事を引き受けることにした。
そして出発の日。黒人用旅行ガイド『グリーンブック』を渡されたトニーは、それを頼りにシャーリーとの旅を始めた。
だが、ガサツでおしゃべりなトニーと紳士的で物静かなシャーリーは、なかなかそりが合わなかった。さらには、トニーの無意識な差別意識もあって、二人はお互いの言動にイライラしていた。
しかし、トニーがシャーリーのピアノの演奏を初めて聞いて、それに感激してからは、二人の関係性は少しずつ変化していった。お互いに知らなかった知識を伝え合い、移動中の車内でも笑顔で会話をするようになったのだ。次第に、トニーの人種差別意識も薄れていった。
だがそれと同時に、シャーリーと共に南部を移動していたトニーは、彼が他人から理不尽な人種差別を受けている姿を何度も目にすることになった。シャーリーは常に毅然とした態度でやり過ごしていたが、トニーにはそれが不思議だった。天才と言われて、地位もお金も持っている彼が、なぜそこまでの扱いを受けてまで、南部でのツアーを行うのか、疑問に思っていたのだ。
それにはある深い理由があった。
その後も彼らは、紆余曲折を経て8週間のツアースケジュールをこなしていった。そして、確かな信頼関係を築き上げた二人の旅の、最後に待っていた奇蹟とは…。
感想(ネタバレあり)
乱暴でガサツな白人のトニーと、紳士で真面目なシャーリーの、少し価値観のズレた掛け合いが面白い映画でした。
そして、旅をしていくうちに二人が仲良くなって、お互いの影響を受けてだんだんと変わっていくところは、とても微笑ましくて癒されました。
人種差別を扱っていましたが、暗さよりも温かさを感じられる映画で、とてもいい気分で観終えることができました。
二人について
トニーとシャーリーの正反対の二人が、どちらもかっこよくて魅力的なキャラクターでした。
序盤のトニーに関しては、すごく乱暴だった上に、分かりやすい差別的な言動をしていたので、私はあまりいい印象を持てませんでした。ですが、シャーリーと一緒に旅をしていくうちに、優しいところやとても頼りになるところが見えてくると、一気にかっこよく見えて好きになりました。
シャーリーの言うとおりに手紙を書く姿や、調子に乗った行動で怒られるところは、可愛くも思えました。シャーリーも最後は同じ気持ちだったとは思いますが、トニーの下手な手紙も、彼なりの素直な言葉みたいで私は好きでした。
最後のニューヨークに着いた後のシーンは、トニーの家族たちの理解が早すぎて、かなりあっさり終わった印象もありましたが、根が優しかったトニーの大事な人たちなので、みんな同じように優しかったのでしょう。
シャーリーは常に勇気をもって行動して自分の信念を貫くところや、酷い扱いを受けても先のために冷静に対処していたところがかっこよかったです。トニーのガサツな行動や言葉遣いを正すときも、なるべく傷つけないような丁寧な言い方をしていたのも、優しくて好きでした。
しかし、天才でリッチに思われていた彼が、人種差別に苦しむ様子は少しショックを受けました。
人種差別の描写について
トニーとシャーリーの正反対の二人の掛け合いは面白かったですが、その合間に何度も描かれていた差別の描写は、いろいろ考えさせられました。
中でも、表面的には天才として認められていて、トニーよりもずっとリッチな生活をしていたシャーリーが、影ではその能力などが原因で、孤独な苦しい思いをしていたと打ち明けるシーンは驚きました。才能やお金があることは、一般的にはうらやましいと思うことですけれど、それが原因になる他人から分かりにくい苦しみも、やっぱりあるのだなと改めて感じました。
シャーリーの苦しみやトニーのかっこよさのように、表面的に見ても分からないけれど、とても大事なことというのは、きっと他にもたくさんあるのだろうと思います。
そういうことは、深く付き合ったり、相手のことをよく見たり考えたりしないと分からないことだと思うので、これからもいろんなことを見てよく考えていこうと思わされました。
新たな価値観に触れて考えを更新していくことで、人間は成長していくものなのかなと、旅の中でお互いの影響を受けて変化していったトニーたちを見て思いました。
まとめ
難しい問題も扱っていましたが、正反対の二人の掛け合いが面白く、仲良くなっていく様子は微笑ましかったです。観ているうちに、二人はとてもかっこよく見えてて好きになっていったので、良い気持ちで観終えることができました。
マハーシャラ・アリさんのピアノは、本当のピアニストみたいに素早く動いていてすごかったです。
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