くちびるに歌を
2015年公開の日本映画。主演 新垣 結衣。監督 三木 孝浩。英題『Have a song on your lips』。アンジェラ・アキの『手紙 〜拝啓 十五の君へ〜』をモチーフにした映画。
(C) 2015『くちびるに歌を』製作委員会 (C) 2011 中田永一/小学館
臨時の音楽教師として数年ぶりに故郷の中学校に戻ったピアニストが、一生懸命な合唱部の生徒と向き合いながら、自分の過去とも向き合い、前へ進み始める話。
あらすじ
長崎県西部にある五島列島の小さな島。そこにある中学校に、産休に入る音楽教師の代理で新たな先生がやって来た。
名前は柏木ユリ。その中学校の卒業生で、プロのピアニストとして東京で演奏していた美人な女性だった。
合唱部の生徒たちは代理の顧問になった柏木に、ピアノを弾いて指導してもらうことを考えていたが、彼女は頑なにピアノを弾こうはしなかった。その上、合唱の指導にも積極的に関わろうとはしなかったのだ。
そんな中、学校の男子生徒の何人かが、美人の柏木を目当てに合唱部への入部届を出した。部長の仲村ナズナは、これまで女子だけでやって来たという理由で、男子を入れるのには反対したが、柏木は彼らを受け入れた。
男子を加えた合唱部がコンクールで歌うことになった曲は、『手紙 〜拝啓 十五の君へ〜』だった。柏木はその曲の理解を深めさせるため、十五年後の自分に手紙を書くという宿題を生徒たちに出した。
柏木は生徒たちと共に時間を過ごし、彼らが書いた手紙を見ることで、彼らが抱えていた誰にも話せない悩みを知っていくことになった。そして、まっすぐに頑張っている生徒たちを見ているうちに、柏木は自分の過去とも向き合い始め、合唱の指導にも徐々に力を入れていったのだ。
新しく入った男子たちもやる気を出し始め、柏木と合唱部はコンクールに向けて全員一丸となって練習に励んだ。
そして本番当日。彼らはこれまでの練習の成果とあらゆる思いを込めて、コンクールの舞台で歌い始めたのだった。
感想(ネタばれあり)
辛いことや苦しいことを抱えていても、一生懸命にまっすぐ頑張っている子供たちの姿にとても感動させられました。特に終盤の、コンクールで『手紙 〜拝啓 十五の君へ〜』を歌う合唱シーンが何よりも最高でした。
一番の15歳から大人の自分へ語りかける部分の歌詞は生徒の気持ちと合わさっていて、二番の大人から子供に語る部分は先生の気持ちが重なっているのが、とても良くて胸に響きました。『手紙』の歌詞のように、子供の生徒たちも、見守る側の先生も、みんな苦しみながら頑張っており、見ていてとてもまぶしい気持ちでした。
その部分の見せ方も、先生と生徒たちのそれまでの背景を、自然に思い出せるような映像を流していて、とても良かったと思います。
最初はまとまっていなかった子たちが、あんなに綺麗な歌声をみんなで合わせて歌えているというだけで、頑張ったんだなと思えてとても嬉しかったですし、感動させられました。
私は特に二番の歌いだしの、男の子たちの声を聞けたときが、一番心に残っています。女子の声は序盤から聞けていましたが、男子は途中までやる気がなかったりして、まともに聞けない状態だったので、それからの練習の成果を大きく感じられて、より感動しました。
万事ハッピーエンドというわけではありませんでしたが、それも『手紙』の歌詞に沿った内容なので良かったと思います。最後のエンドロールまで、その歌詞の意味をじっくり考えながら楽しむことができました。
登場人物について
生徒や先生の心を動かす場面の描写が、とても丁寧な印象を受けました。彼らが出てくるどの場面も、その悩む心を理解するためには必要なものだと感じました。
新垣結衣さんが演じていた柏木先生は、初めは生徒に冷たい態度をとっていましたが、音楽に対する真摯な考え方はあらゆる場面で感じられましたし、一生懸命な生徒を見ているうちに、徐々に心を開いていく様子も良かったです。自分も悩みを抱えているのに、生徒たちを心配する表情やそんな素振りをしているところを見ると、本当は優しい人なのだろうなと感じました。
それに加えて、シンプルに美しすぎたことに驚きました。あんな先生が来たら生徒たちが夢中になるのも当然です。私はいろんな役の新垣さんを見てきたつもりですが、柏木先生の新垣さんが一番好きかもしれないです。それくらい美しかったし良いキャラクターだったと思います。
あれだけ新垣結衣さんが美しくて魅力的な人物を演じていたら、他の人物の印象が弱くなりがちですが、この映画はそんなことも無かったです。生徒たちが抱えていた悩みが意外と重くて、それについて真剣に悩んでいる彼らの懸命な姿は、美しすぎる柏木先生の魅力にも負けていませんでした。
それに、深い悩みに向き合う心境や、乗り越えるきっかけになったことが、それぞれ丁寧に描かれていたので、素直に彼らを応援したくなりました。
ナズナが劇中で言っていましたが、『手紙』は15歳の自分と30歳の自分が語り合うような詞なので、この映画は、子供の生徒たちと大人の柏木先生の存在がちゃんと活きることが大事になっていると思います。どちらかだけになると、見せ場のコンクールのシーンの感動が薄れてしまうと思います。
そういう面で考えても、先生と生徒のどちらも愛着を持てる人物にしていたのはすごいなと思わされました。柏木先生があんなに美しいのに。
サトルのお母さんもとても良かったです。引っ込み思案なサトルが合唱をやりたいというのを、ちゃんと応援してくれていた優しいお母さんでした。
サトルたちがコンクールで歌う姿を見て感動して泣いていましたが、その気持ちには私はとても共感しました。私も彼らが練習している姿や、悩み苦しんでいる姿を見て知っているので、最後は完全にお母さん目線で見てしまっていました。
松山先生も塚本先生もケイスケも、みんな良い人ばかりで優しい気持ちになれる映画だったと思います。
演出について
登場人物のほとんどが方言を使うところや、五島列島の景色が映るところは、日常生活に彼らの苦労や頑張りが溶け込んでいる感じがして良かったです。
柏木先生だけが方言を出さないことが途中まで気になっていましたが、一番良い場面で使ってくれたので、私は満足できました。監督の思い通りに心を動かされているようで、少しだけ悔しい気持ちもありましたけど。
最後のコンクール会場での一連の流れで、それまでの出来事を集約させているようなところは感動しました。
同じ三木 孝浩監督の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』でも思ったのですが、最後のシーンのために、これまでの全てのシーンがあって、そのすっきりした気持ちのままエンドロールを迎えられるというのが、私にとっては一番気持ちがいい終わり方だと思いました。
まとめ
悩みを抱えている子供たちが一生懸命に歌っていた姿にとても感動させられました。
柏木先生はとても美しかったですが、先生を含めて、人物の感情が動く場面の描写がとても丁寧だったため、みんなのことを好きになれました。
観終えた後、『手紙 〜拝啓 十五の君へ〜』の歌詞を見ながら、何度も聞きたくなりました。
新垣結衣さんファンの人には、特におすすめの映画です。
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