夜明け告げるルーのうた
2017年公開の日本のアニメーション映画。主演 谷花音、下田翔大。監督 湯浅政明。英題は『Lu over the wall』。キャッチコピーは、『君の"好き"は、僕を変える』。
©2017ルー製作委員会
人魚が出ると言い伝えられている町に住む、好きなことが見つけられない少年が、一人の人魚に出会い、彼女たちと音楽をしながら成長していく話。
あらすじ
細々とした漁業と傘しか産業がない寂れた漁港の日無町。そこには昔から人魚が出ると言われており、湾を日陰にし続ける大きな岩の『お陰岩』が、太陽を避ける人魚たちに格好の環境を与えているとされていた。さらに、その人魚は人間をも捕食する恐ろしい海の怪物と言われ、これまでに多くの人間がその人魚たちの餌食になったと恐れられていたのだ。
そんな日無町に、カイという男子中学生が父親と祖父の三人で暮らしていた。彼は暇つぶしに自作の音楽をネットに投稿していたが、本気で好きなことを見つけることもできず、無気力な日々を送っていた。
そんな時、カイはクラスメイトの遊歩と国夫に強引に誘われ、彼らのバンド『セイレーン』に参加することになった。その後、彼らが人魚島と呼ばれる場所で曲の練習をしていると、三人はその演奏に合わせて歌う謎の歌声を耳にしたのだ。
そして、家に帰ったカイの前にルーと名乗る人魚が現れた。彼女は水を操る不思議な能力と、音楽を聴いている時だけ魚の尻尾が人間のような二本の足に変わる性質を持っていた。人魚島でカイたちの曲に合わせて歌っていたのもルーだった。
カイはルーを気に入り、すぐに彼女と仲良くなった。そのおかげか、彼はそれまでよりもバンドの練習に積極的に参加するようになり、次第に遊歩たちとも明るく笑顔で話すようになっていった。カイが遊歩と国夫にルーを紹介すると、彼らもすぐにルーを気に入った。
そして彼らは、海で亡くなった人を弔うお祭り『灯篭祭』のステージで、ルーをボーカルとして演奏することになったのだ。
ルーを入れたセイレーンの初演奏は大いに盛り上がった。ルーが踊りだすと会場にいたみんなも踊り始め、楽しそうにしていた。だが音楽を止めた時に、彼女の足が魚のものになるところを見られたため、一部の人にはルーが人魚だと気づかれてしまった。
さらに、その様子が動画サイトにも投稿されてしまったことにより、人魚を見たがる人たちがその後、町に大勢やって来たのだ。
その状況をチャンスと捉えた日無町の町内会長たちは、昔失敗に終わった人魚ランドを再開し、ルーを利用して町おこしをする計画を立てていた。
それを聞いたカイは、これ以上ルーを利用されることを嫌がった。だが、遊歩と国夫は違っていた。派手な人魚ランドのステージを楽しみにしており、ルーと一緒に出演しようとしていたのだ。何より、ルーもそれに出演したがっていた。
その後、遊歩と国夫はカイがいない状況で人魚ランドのステージに上がった。だが、ある行き違いから失敗してしまい、ルーがその場から逃げ出してしまう。そしてさらに、人魚が人間を食べてしまうという噂が広まったことで、ルーは町の大人たちに捕まってしまったのだ。
カイはルーを助けるために奮闘するが、人魚を敵視する大人たちや、海からやって来たルーのパパも巻き込んで、それは大きな騒動へと発展していく。さらには、人魚に危害を加えたことによって、日無町はお陰様のたたりに襲われ、水没の危機に陥ってしまうのだ。
自分の住む町とルーたち人魚の危機を目の当たりにしたカイは、みんなを救うため、ウクレレを手にして、一人でルーの好きな歌を歌い始めたのだが…。
感想(ネタバレあり)
好きなことができずに無気力気味だった少年が、人魚と出会ったことで、本当にやりたいことができるようになっていくという、とても爽やかでまっすぐないい話でした。
人間の悪いところや暗いところも少し描いていましたが、最終的にはみんな人魚の良いところを理解して、人魚と人間が助け合うような、分かりやすく優しい物語になっていました。
最後のシーンについて
正直なところ、中盤は盛り上がりそうで盛り上がらないようにも思えましたが、最後のカイが歌う一連のシーンは、そのすべての不満を忘れるほど熱い展開で感動しました。
あの廃墟みたいになった人魚ランドで、たった一人ウクレレ一本だけ持って「歌うたいのバラッド」を歌うカイの姿が最高にかっこよかったです。
序盤はやる気のなかった彼が好きなもののためにとても一生懸命に歌う様子と、それに応えるように力を取り戻したルーたちが水を食い止める姿、さらに一番盛り上がる「今日だってあなたを思いながら歌うたいは唄うよ」のところで、人魚を敵視していたはずのおじいさんが、それまでずっと作っていた傘を広げて人魚を守るという状況などが、全部合わさってとても熱いシーンでした。
歌っている時のカイの周りを回るような描き方も、とてもかっこよくて最高でした。
その後、カイが自分の好きなことや、やりたいことを言えるようになると同時に、お陰岩がなくなって町に日が当たるようになったというのも、綺麗にまとまっていて良かったです。
キャラクターについて
やはり物語が進むにつれて、カイが好きなことをするようになって、成長していく姿が一番良かったです。
何でも好きと言っていたルーへの気持ちに気づいたことが、彼が吹っ切れる一番のきっかけになったのでしょうけれど、私は彼の周りの人間のキャラクターからの言葉も好きでした。
セイレーンの練習中に国夫が言った
「下手でもいいんだよ。お前なりでさ。」
映画「夜明け告げるルーのうた」国夫のセリフ
とか、カイのお父さんが言った
「お前は思った通りやればいいんだ。思ったことを言っていいんだ。結果を恐れるな。」
映画「夜明け告げるルーのうた」カイのお父さんのセリフ
とかの、それまでの周りの優しい言葉も、最後のカイの歌のシーンに繋がっていたのだと思います。そう考えると最後のシーンは、上で書いた盛り上がりに加えて、感動も増しました。
あんまり上手くはないけれど、カイなりに歌う「歌うたいのバラッド」の中で、初めて本当に思っていることを口にするという展開は、それまでのいろんな人の言動を受けて成長したカイを、すごくまっすぐに表しているようで、とても好きです。
また、ルーのパパもとても強くて好きでした。
燃えながらルーを助けに行く場面は、とても強く迫力があって怖いくらいでしたが、そこまでして娘を守ろうとしていた姿はかっこよかったです。それまでは、人間に対して優しく接していたこととのギャップもあって、衝撃的なシーンでもありました。
パパやルーをはじめとした人魚たちは、人間から酷い扱いも受けていたので、復讐するようなことがあってもおかしくはないと思いました。ですがそんな展開もなく、最後はみんなで協力して楽しく踊って終わるという物語になっていたのは、優しくて安心もできましたが、物足りなさも少しありました。
しかし、たとえ下手でもボロボロでも、好きなことや大切なもののために頑張っている人はかっこいいと、ルーのパパやカイを見て素直に思わされました。
まとめ
少年の成長をまっすぐ描いているとても爽やかな良い話でした。人間と人魚ではっきり敵対させることなく、最後はみんなで協力して終わるという、とても優しい映画でした。湯浅政明さんが描く独特の表現もあって、いろんな面から楽しめました。
中盤は少し物足りないとも感じましたが、それを吹き飛ばすくらいラストの歌のシーンは熱くてかっこよかったです。しかし、全体的には「夜は短し歩けよ乙女」の方が好きです。
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