運び屋
2018年公開アメリカ映画。日本では2019年公開。監督 クリント・イーストウッド。出演 クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー。原題は『The Mule』。
©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
家族よりも仕事を優先していた90歳の老人が、犯罪組織のドラッグの運び屋になって、自由にドライブしながら家族に罪滅ぼしをしていく話。80歳代で大量のドラッグを運んでいた人物の実話を基にした物語。
あらすじ
主人公はアール・ストーンという名の90歳の男性。
彼は長年に渡って、花を育てる仕事に力を注いできた男だった。毎日花の世話をして、品評会に行くためにアメリカ中を車で走り回ったことで、仕事での成功を収めてきたのだ。
しかし、それは家族との時間を犠牲にした結果でもあった。娘の結婚式の日にすら仕事をしていたため、彼はついに家族から見放された。娘は十数年間アールとまともに口をきいてくれなくなってしまったのだ。
さらに一人で暮らしていたアールは、インターネットの普及が原因で、これまで力を入れていた花を育てる仕事すらも奪われてしまった。
そうしてアールが途方に暮れていたところ、一人の男が彼に話しかけた。その内容は、指示通りに車で荷物を運ぶ仕事の誘いだった。アールがこれまで、無事故無違反でアメリカ中を走っていたことを知って、誘いをかけてきたのだ。
お金に困っていたアールは、一回限りという気持ちでその仕事を引き受けた。
それからアールの運び屋としての生活が始まった。
最初の荷物を無事に運び終えた彼は、簡単な仕事で驚くほどの大金がもらえたことを喜び、それからもその仕事を続けることにした。そして彼が荷物を送り届けるたびに、その荷物の重さと報酬の額は大きくなっていった。
その後アールは、自分が運んでいる物がメキシコ犯罪組織によるドラッグだということに気づいたが、今さら辞めることはできなかった。彼がその仕事で得た大金は、これまで蔑ろにしていた家族への罪滅ぼしのために使っていたからである。
アールは自由気ままに運び屋の仕事をこなしていた。余計なことはせずまっすぐに到着地点に向かえと、組織の人間にいくら言われても、食べたいものがあれば店に寄り、パンクで困った車を見つければ助けるために停車した。
到着予定時刻に遅れることも多々あったが、アールはその後も捜査官に捕まることなく何度も仕事を成功させた。その行動が誰にも予測のつかないものだったからである。
アールはそのまま仕事をつづけることで犯罪組織のボスに気に入られるほどの存在になっていき、さらに巨額の価値を持つ荷物も頼まれるようになった。
だがある時、その状況は大きく変わった。組織のボスが変わり、それまでのような自由な行動ができなくなったのだ。もし到着時間を守らなければ、アールの命も危ないような状態だった。
その後、大量のドラッグを運んでいたアールのもとに、離れていた家族に関する大事な知らせが届く。それを聞いた彼は、再び仕事と家族の二者択一を迫られることになるのだった。
そしてさらには、アールを追い続けていた捜査官も彼のすぐそばまで近づいていたのだ。
かつては蔑ろにした家族のために、危険な運び屋をつづけた90歳の老人の最後の選択は…。
感想(ネタバレあり)
ポスターの雰囲気から重い映画かと思って観始めましたが、実際は元気なおじいさんが好き勝手に楽しく旅をしている場面が多かったので、予想していたよりもずっと観やすい映画でした。
終盤には捜査官との緊迫感のあるシーンもあって、全体的に分かりやすく楽しめました。しかし、家族や人生について描いた深い部分もあり、いろんな面から楽しめる映画だと思います。
アールについて
悪いことをしていたので素直に全部を褒めることはできませんが、主人公のアールが、とても自由に楽しく生きているおじいさんだったところは好きでした。
年齢や運び屋としての役割などを考えて落ち着いて過ごすのではなく、何も気にせず好きなところに停車して、好きなように遊んで過ごすおじいさんの姿は、見ていて楽しかったですし、爽快な気分にもなりました。
そして、黒人でも麻薬組織の人でも、どんな人にでも力になろうと声をかけていた姿もとても良かったです。口は悪かったかもしれませんが、その中に温かさを感じました。
私は特に、ブラッドリー・クーパーさんが演じていたベイツ捜査官と、朝食の時に話していたシーンが印象的でした。運び屋だとバレないために一番おとなしくしなければならない時なのに、奥さんとの記念日を忘れてしまった彼に、自分の失敗談を話して真摯にアドバイスしてあげるところは、その優しさに驚かされました。バレるかもしれないというドキドキ感も同時にあって、心に残るシーンでした。
終盤で彼と再会した時もまた良かったです。ベイツ捜査官もその見た目通り、かっこよくて優しい人でした。
『人は永遠には走れない』という言葉を予告の映像で言っていましたが、永遠ではなく残りの時間が長くないからこそ、走れる今の時間を楽しく生きる彼の姿は、見ていて面白かったです。
創作の物語でよく見る頑固なお年寄りではなく、家族や仕事についてなどの考えを改めて、若い人に伝えられるところも良かったです。永遠には走れないからこそ、伝えないといけないこともあるのかもしれません。
差別的な用語について
最近は映画でも現実でも、差別的な発言は問題になったりします。それは少しでも人を傷つけないために良いことですが、アールは問題になりそうなことをたびたび言っていたのが印象的でした。
しかしそんなアールでも、麻薬組織の人から捜査官まで、様々な人と仲良くしていて好かれていました。それは彼に思いやりの心があることが、自然と伝わる言動をしていたからだと思いました。彼は良くない言葉遣いはしていましたが、他人の力になろうとしていることは、いろんな場面での発言の内容や行動から自然と分かりました。
発言の一つの単語や一つの行動を切り取って、その人全部をひどい人だと判断するのは簡単ですが、その全体を見ると全く違った印象になるということは、現実でもあるかもなと思わされました。
乱暴な言葉遣いでもいろんな人と仲良くしているアールを見ると、相手を傷つけていないのなら、いろんな言葉や接し方があってもいいかもしれないなと感じました。言葉遣いを気にするのは悪いことではないですが、敏感になりすぎるのも良くないのかもしれません。
劇中の彼らのように、寛容になってなるべく喧嘩せずに過ごしていきたいものです。
まとめ
元気なおじいさんが楽しく旅をしている場面が多かったので、予想していたよりもずっと観やすい映画でした。悪いことをしていたのでアールの全部を褒めることはできませんが、生きている時間を楽しく過ごせて、学んだことを若者に伝えられる良い人だったと思います。
私はブラッドリー・クーパーさんの爽やかな笑顔がとても好きなので、この映画の優しい捜査官役は良かったです。特にクリント・イーストウッドさんのアールと話すシーンはどれも印象に残りました。
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