ちょっと今から仕事やめてくる
2017年公開の日本映画。主演 福士蒼汰。監督 成島出。
(C)2017『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会
ブラック企業に勤めて追い詰められていた男の前に、ヤマモトと名乗るさわやかな笑顔を見せる明るい男が現れ、彼と過ごしながら自分の人生や働き方について見つめなおす話。
あらすじ
就活に失敗した青山隆は、やっとの思いで内定をもらえたある企業に入社した。しかし、営業マンとして入ったその会社は、いわゆるブラック企業だったのだ。
残業代の出ないサービス残業は三ヶ月連続で150時間を超え、仕事のミスで発生した損失は給料から引かれて、日常的に部長からのパワハラも受けていた。
青山はそんな日々を送るうちに、入社当時には持っていた将来への夢や希望を見失ってしまっていた。そしてある日フラッと、電車が入って来る線路に落ちようとしたのだ。
しかし、青山が電車にはねられる寸前に、ある男が突然近づいてきて彼をホームへ引き寄せた。その男は青山に、小学生の頃の同級生だったヤマモトと名乗った。青山はその名前と顔に覚えがなく不審に思っていたが、ヤマモトは強引に彼を飲み屋に連れて行った。
その後、友達になった彼らはたびたび会って、子供のように遊んだり、買い物をしたりして仲を深めていった。明るい言動のヤマモトに付き合っているうちに、青山の考え方もいつの間にか前向きになり、ヤマモトのアドバイスを聞いたことによって、青山の仕事もうまく行き始めていた。
しかしある日、青山は目の前のヤマモトが、自分の幼馴染ではないことに気づいた。ヤマモトはすぐにその事実を認めて本名を名乗り、二人は改めて友達となった。だが、その後青山がヤマモトの本名を調べると、驚くべきことが分かった。ヤマモトは、長時間労働とパワハラによるストレスで、三年前に自殺していたのだ。
青山は、彼が自分を助けに出てきてくれた幽霊だと思い込み、より一層仕事に力を入れるようになったのだが、また新たな壁にぶつかってしまう。
その後、青山はヤマモトからの熱い言葉を聞いて、ある大きな決断をすることになる。そして、新しい希望を持った青山を目にして、謎の人物ヤマモトがとった行動は…。
感想(ネタバレあり)
青山がブラック企業の辛さに耐える場面は、過剰に思えるほど観ているのも辛かったですが、福士蒼汰さんが演じるヤマモトの優しさと笑顔のおかげで、沈んだ分以上に励まされました。悩んでいる人が観れば、彼の言動に元気づけられると思います。
ヤマモトについて
私は特に、青山が電車にはねられかけるシーンが一番印象的でした。死ぬほど苦しんでいた青山が、ヤマモトに引き戻されて強引に飲み屋に連れていかれるうちに、会社のことについて考えなくなるところが好きです。苦しむ青山を見ていて私も暗い気持ちになっていたのですが、ヤマモトの爽やかな笑顔を見ると、彼に線路から引き戻された青山と一緒に、私も暗い気持ちから引き戻されたような気分になりました。
それからも、青山が辛いときにはいつも親身になって話を聞いてくれて、良い笑顔で彼を元気にしていくので、見ていてとても気持ちが良かったです。さすが元仮面ライダー部だと思いました。
以前から福士蒼汰さんが好きな私は、ヤマモトの爽やかな笑顔には何度も癒されました。
ブラック企業などの表現について
ブラック企業の表現については、少しやりすぎではないかと感じました。今の時代に、露骨にブラックな社訓を言わせたり、叩いたりする人はなかなかいないと思います。今の時代に多いのはおそらく、有給なんていらないと直接言わせるのではなくて、有給を取ってもいいといいつつ、有給を取っていたら追いつかなくなるくらいの仕事を与えて、実質とれなくするタイプのブラックだろうと思います。多くの人にとって分かりやすいブラック企業にしたのかもしれません。
しかし、他の部分は現実感のある描写が多かったように思いました。吉田鋼太郎さんが演じていた部長が、青山に『仕事を与えているのは俺の親心』などと言って、自分の行為を正当化しようとしているあたりは、じっさいにありそうだと感じました。そして青山だけでなく、先輩も含めた会社のみんなが苦しんでいたというのも、余裕が無いブラック企業のリアルな感じがありました。ノルマや数字を特に気にしていたことから察するに、部長も上からの負担を感じていたのかもしれません。
青山がお母さんから送られてきた野菜を腐らせていたり、お母さんがどうでもいい用事で電話をかけていたところも、変にリアルでとても悲しかったです。そんなに大切に思われていた息子さんが、ブラック企業のせいでまともな生活が送れなくなっている様子は、見ているのがとてもしんどかったです。
そして、私が一番考えさせられたのは、
「隆にとって、仕事辞めることと死ぬことは、どっちの方が簡単なん?」
映画「ちょっと今から仕事やめてくる」のヤマモトのセリフ
というセリフです。
おそらく、冒頭の当たり前の生活もまともに送れない青山の状況では、あの部長に仕事を辞めると切り出すことは、死ぬよりも難しいことだったのではないかと思います。あの会社の雰囲気の中で、仕事を辞めると言って部長に責められ続けるよりも、線路に落ちる方が楽だと思う状況にあったのだと思います。
けれども、上のヤマモトのセリフを聞いた時の青山は、死のうとしていたことを否定したんです。彼が死ぬことを考えなくなったのは、ヤマモトという爽やかな笑顔を向けてくれる友達ができたからでしょう。つまり、ヤマモトの笑顔が根本からの考え方を変えるほど素晴らしかったということです。
劇中で彼らがお互いの笑顔に励まされていたように、誰かが自分に笑顔を見せてくれるというのは、たとえイケメンや美人や知り合いでなくても、嬉しいものだと思います。少なくとも、私は周りの人が笑顔でいてくれたら嬉しいです。
なので、自分のためにも周りのためにも、私はまず自分が笑顔で居られる環境を探し続けるべきなのだと感じました。福士蒼汰さんほど爽やかな笑顔はできませんが、その100分の1でも、良い笑顔を周りに見せて、ヤマモトのように誰かを良い方向に導けるようになりたいです。それが自分の幸せにも、他人の幸せにもつながるのだと思います。
気になった点について
全体的に、セリフで全部説明している場面が多くて、少しもったいなく感じました。
特に、青山と園長先生が話すシーンで、過去のヤマモトたちの気持ちや言葉を、ほとんど園長先生が語っていたところは違和感がありました。
五十嵐さんが自分がやったことや心境を、青山が辞める日のあの場で全部口に出して説明するのも、少し変に思いました。
ヤマモトのキャラクターや外見については、私はとても好きなのですが、彼が青山に山本純と名乗っていた理由がよく分からなかったです。バヌアツではユウ先生と呼ばれていたので、普段からずっと純を名乗っているわけではなさそうなのに、なぜ青山には純と言ったのか、私は最後まで分かりませんでした。何か私が気づかなかった深い理由があったのかもしれません。ドラマチックにするためだけかもしれません。
ブラック企業については本当に難しい問題だと思います。劇中の部長や先輩などの個人が悪いという問題にもできないので、表現や解決方法も難しいと思います。ですが、全部バヌアツに丸投げするのは良くないと思いました。バヌアツも、欠点が全くない天国というわけではないと思います。
まとめ
謎のバヌアツ推しは少し気になりましたが、ブラック企業に苦しむ青山などの表現はリアルに感じられて、いろいろ考えさせられました。そして何よりも、福士蒼汰さんが演じていたヤマモトがとても優しくてかっこよかったです。福士蒼汰さんのファンはもちろんですが、そうでない人も彼の爽やかな笑顔に救われる人はいると思います。
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