鍵泥棒のメソッド
2012年公開の日本映画。監督・脚本 内田けんじ。主演 堺雅人。
(C) 2012『鍵泥棒のメソッド』製作委員会
貧乏な俳優志望の男が記憶を失くした裏社会の便利屋 「コンドウ」と呼ばれる男から荷物を盗み,お互いの人生を入れ替えてしまう。入れ替わった相手が何者か全く知らない彼らが,困惑しながら過ごす様子を描いたコメディー。
あらすじ
出版社で雑誌の編集長の仕事をしている女性 水嶋 香苗は,仕事終わりに突然,部下たちに結婚する予定であることを伝えた。続けて,まだ相手は決まっていないこと,結婚相手の希望は『健康で努力家の人』,12月第2週あたりには結婚する予定であることを口にした。几帳面で計画的な彼女の手帳には,何月何日にプロポーズされ,何日にウエディングドレスを試着するなど,まだ出会ってもいない相手との恋愛のスケジュールが仕事の日程と同じように,一日単位で細かく書かれていたのだ。
その一方で,ある家の前では強面の男 山崎 信一郎が車の中でその入り口を見張っていた。そこからある男が出てくるのを確認すると,彼はナイフを持って車の外に出た。そして,その男を刺すような動きを何度かすると,男の体は倒れて山崎によってトランクに入れられた。赤く染まったナイフとレインコートをビニール袋に入れると,彼は車を走らせてその場を去った。
さらに違う場所,ボロアパートの一室では売れない貧乏役者 桜井 武史が倒れていた。起き上がった彼は,自分の財布の中に少しのお金と銭湯の入場券しか入っていないことを確認すると,それらを服のポケットに入れて銭湯へ向かった。
そして山崎も,前の仕事で着いた汚れを落とすために銭湯へ向かっていた。
銭湯に到着して風呂に入ろうとした山崎だったが,彼は突然滑って来た石鹸によって転んでしまい,気を失ってしまう。そしてその現場を目撃した桜井は,ほんの出来心から自分のロッカーの鍵と彼の鍵を取り換えてしまったのだ。
山崎を病院に運ぶためやって来た救急隊員は,桜井の荷物を彼の荷物だと思い込んで病院へ持っていき,桜井は山崎の手荷物を持って銭湯を出た。
桜井はかなりの現金を持ち歩いていた山崎のお金を使って,昔の知り合いに借りていたお金を返したり,高級な服を買ったりと好き放題をしていた。だが,事態は山崎が持っていた電話にかかってきた一つの電話から一変した。
電話の相手は彼のことを「コンドウ」と呼び,次の仕事を依頼したい,と言ってきたのだ。電話の相手と話してみると桜井が荷物を盗んだ人物は,殺しの依頼も引き受けるという噂の,裏社会の便利屋「コンドウ」という名前で活動している男だということが分かった。仕事の話を聞いた以上,引き受けなかったらただでは済まないと考えた桜井は,「コンドウ」として裏社会の仕事を受けることになった。
そんな一方で,桜井に手荷物を盗まれた山崎は,銭湯で頭を打った後記憶喪失になっており,自分のことを桜井 武史だと思い込んでいた。35歳にもなって定職もなく,ボロアパートに一人暮らしという桜井の人生の状況に一時は落ち込んでいたが,すぐに彼は,自分の部屋の状況から以前は役者を目指していたんじゃないかと考えて,それに向けて勉強し始めた。
山崎は偶然出会った結婚相手を探す香苗と仲良くなっていき,役者としての経験を積みながら,記憶を失う前とは全く違う彼女との平凡で幸せな生活を過ごしていた。香苗もそんな努力家の山崎に惹かれていき,ついに彼に結婚を申し込み,山崎も彼女の思いを受け入れた。
二人はそのまま結婚するように思えたが,あることをきっかけに山崎は以前の記憶を思い出し,彼女の前から姿を消してしまう。
その時桜井は,「コンドウ」として引き受けた裏の仕事を自分なりに計画を立ててやり過ごそうとした結果失敗し,逆に自分の命が狙われるという絶体絶命の状況になっていた。
仕事の依頼主から逃げて山崎の自宅に戻ってきた彼を待っていたのは,記憶を取り戻した山崎だった。依頼主と山崎の両方にビビりながら状況説明をした桜井に対し,山崎は意外な言葉を掛けた。
「俺が助けてやる。その代わり,お前の人生このまま俺がもらうぞ」
その後,彼らは文字通り人生の全てを掛けた大芝居を計画し,裏の仕事の依頼主に立ち向かっていくことになる。
感想(ネタバレあり)
ストーリーについて
すごく綺麗にまとまった話だと思いました。
前に貧乏が原因で奥さんに逃げられた山崎が,桜井として香苗さんのことを大切に思ったことで,大金を手にできるコンドウとしての生活を捨ててでも,再び愛のために生きようと決めた感情がとてもすてきだと思いました。
でも私が一番綺麗だと思ったのはその話の展開です。話の途中では前後の話と何も関係が無いように見えるシーンでも,それが最後のシーンにつながっておりすべてに意味があったのかと気付かされて,びっくりしました。香苗さんが作っていた雑誌のことや桜井が車内でばらまいた写真のこと,山崎の車がことあるごとにキュンキュンなっていた意味や山崎がずっと書いていた日記とかの全てが,最後の20分間に繋がっていて良くできてるなと思いました。
そしてもっと驚いたのは,そんなに良くできた話を見た時の自分は,いきなり感動するんじゃないんだなって気づいたことですね。
まずは,すごく良くできてる話だと気付いた「衝撃」。それから,これまでのどんなことが繋がってこうなったのかという「事態の把握」。そしてオチはどうなるんだろうかと期待する「緊張」。最後のエンドロールを見て初めて「感動」を感じるんだなと思いました。
キャラクターについて
この映画の登場人物は良い人が多かったので,安心して見られました。
香苗さんを最初に見た時は,出会っていない人との結婚を決めるというのはちょっと現実味がなさすぎる設定かなとも思ったんですけど,父親を安心させるためだと分かったら納得しました。むしろ何て優しい人なんだと思いました。その香苗にメッセージを残していたお父さんもとても良かったです。
山崎もコンドウとして活動していた記憶が無くなると,すごくまじめで優しい人になっていたことから,元々は優しい人だったんだなと思わされました。
山崎と香苗が二人で『頑張り屋さんなんですね。』って褒め合っているシーンはすごく微笑ましかったです。序盤ではあんなに怖い顔をしてたのに,別人みたいですごいなと思いました。
そして途中の山崎が桜井に演技指導をするシーンは,妙に説得力があって心に残りました。
この説得力は多分,私がこれまで香川 照之さんがテレビや映画でいろんな役を演じているのを見てきたから感じたものなんじゃないかなと思いました。無意識にその人がいろんな演技の経験を積んできた人だって思ってたから,なるほどなと思って聞けたんじゃないかと思います。
その理由だとしたら,もし堺さんが山崎を演じたとしても同じく説得力のあるように見えたのかもしれません。しかし見終わった後私の中で,桜井と山崎は堺 雅人さんと香川 照之さんでしかイメージできなくなってることから,この映画は演技経験豊富な二人がこの二役を演じたからこその完成度になったんじゃないかと私は思いました。
ちなみにこの映画の香川 照之さんも良いですけど,私が香川さんが演じた人物で一番好きは映画「キサラギ」のいちご娘です。
まとめ
ロマンチックな展開もあって優しい話なだけでなく,伏線回収もきれいで,すごく安定感のある映画だったと思います。いつ見ても良くできた話だなと思わされて,気楽に楽しめる映画だと思いました。
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