映画「何者」から読み解く今の就活の闇,変化,異常についての考察
映画「何者」では,現在の大学生がリアルな就活で悩んだり,苦しんだりする様子が描かれていました。
彼らがやっていた就活は,少し前のものとはとても変化しており,今の就活生はとても苦しそうだと思いました。
私が「何者」を見て,その後勉強したことで学んだ就活についての考えを書いていきたいと思います。
映画「何者」の感想
就活の最も大きな変化
現在の就活において少し前と最も変わった点はやはり,インターネットの就職サイトを使い始めたことだと思います。
映画でも佐藤健さん演じる拓人が,菅田将暉さん演じる光太郎に就職サイトを教えていました。
私は,就職サイトを使った就活が,最も就活生を苦しめる原因になっていると考えます。
説明のための例として,大企業A群,中企業B群,小企業C群の3種類の企業群があり,大企業が入社してほしいと思っているレベルの学生aさん,中企業が入社してほしいと思っているレベルの学生bさん,小企業が入社してほしいと思っているレベルの学生cさん,の3人の学生がいるとします。
昔の就活では,A群,B群,C群の企業はそれぞれ,aさん,bさん,cさんのいる大学に求人票を出して,学生はその中から選んで面接を受けるという方式でした。
なので,aさんはA群,bさんはB群,cさんはC群の企業を受けるということだったため,aさんとbさんとcさんが,同じ企業を受けるということはあまりありませんでした。
しかし,今の就職サイトを使った就活では全員に同じ情報が与えられるため,aさん,bさん,cさん全員が,どの企業にもエントリーする権利があります。
しかも就職サイトは企業にエントリーが集まるほどお金が入る仕組みなので,サイト側は就活生に対して,”たくさんエントリーしないと就職できないぞ”と言う風に煽りまくります。
その結果,bさん,cさんも大企業A群に応募します。しかし,A群は aさんレベルの人を求めているわけですから,bさんと cさんはきっと不採用です。
そこで bさん,cさんがA群の企業を諦めればいいんですけど,就職サイトの言うとおりに,大企業にたくさんエントリーして続ける人ならば落ち続けます。
最近の就活をしたことが無い人には理解しにくいかもしれませんが,就活をちゃんとやってて落ち続けると言うのは,精神的にかなりきついものです。
映画で光太郎がこんなセリフを言っていました。
「内定って不思議な言葉だな。それだけで自分が肯定された気になる。」
内定が肯定された気分なら,内定がもらえない人はずっと否定され続けている気分になっているんです。
周りの内定がもらえている人との差が広がっていき,自分が社会に必要のない人間で,これからの人生もきっとだめだと勘違いしてしまう人もいます。
これが昔は少なかった,就活うつや就活自殺の原因だと思います。
昔の就活であれば,採用される見込みの薄いところはあまり受けることもなかったです。しかし,就職サイトが多くの企業の情報を公開したことによって,就活生が以前はしなかったはずの苦労をしています。
この現状を見て,自分に釣り合わない企業を受ける就活生が悪いと言う人もいますけれど,「大企業に入ったら,人生安泰。」とか「就活でブラックに入ったら人生終わり。」とか,そんな考え方が割と一般的な今の就活で,それを責めるのはあまりに酷だと思います。
しかしここまでは今よりも少し前,2年前までの話です。
bさん,cさんが大企業A群に落ち続けても気持ちさえ保てば,その後で彼らはB群やC群の企業を受ければきっと就職できます。中小企業の採用面接の多くは,大企業の後にやるものでしたから。
劇中の光太郎もきっとそんな感じで内定をもらったのだと思います。
「何者」は原作が少し前のものですから,多分数年前の就活のリアルを描いているんだと思います。
1年前からの就活の変化
1年前からの就活は,就活生に対してさらに厳しい方向に変わりました。
2年前までは,4月から選考が始まっており,それまでは企業のことを調べたりしていました。そして早い人は4月に面接があったため,第一希望の企業が不採用でも,10月の内定式までに他の企業を探すことが楽にできました。
しかし,1年前の就活では東証一部上場企業を中心に構成される経団連と言う団体に所属する企業が,学生の学業を優先させるため,8月から選考開始するというルールを決めたのです。
そのため,経団連所属の大企業が第一希望の人は,その企業がだめだった場合,他の企業を探すことが難しくなりました。
そこで彼らがうまくいかなかった時の保険や,面接の練習としてやったことは,経団連に所属していない中小企業を7月以前に受けるというものでした。
経団連に所属している企業は人気のある企業が多いので,上の例で言うと aさんも bさんも cさんも入りたいと思っている場合が多いです。
この状況が何を表すかというと,大企業A群の選考前に,保険として中企業B群と小企業C群の選考にaさん,bさん,cさんの全員の応募が集まるということです。
当然,中企業B群と小企業C群の採用担当者は,高い能力を持った aさんに内定を出し,bさんと cさんは落とされる形になってしまいます。
落ちてしまった bさんと cさんは8月の第一希望の大企業A群の選考に懸けるのですが,そこにはもう内定を持っている aさんも参加しているため,aさんが内定をもらえて,彼らは内定をもらえない場合が多いです。
結局,A群の企業から内定をもらった aさんはB群,C群の企業の内定を辞退して,中小企業に入社する人は予定よりも少なくなってしまいます。
その一方で,中小企業の採用活動の多くが終わっている8月に落ちてしまった bさんと cさんは焦って次の選考を受ける企業を探すあまり,もともと全然希望していなかった企業に行くことになってしまうかもしれません。もしくは就職浪人や,正社員として働きたい気持ちはあるのにフリーターや派遣社員,ニートになってしまう可能性もあります。
経団連のルール変更が起こしたものは,中小企業群の人手不足と学生と企業とのミスマッチでした。
現在の就職サイトを使っての就活で得をするのは,就職サイトの運営会社と就活生が一番優先して入社を考える大企業だけだと思います。
就活生には,余計に面接を受ける労力や,多くの落とされる経験で負担をかけますし,中小企業は本気で志望する人かどうかの判断が難しくなります。
一部の人しか得をしないこの就活のシステムはおかしいとは思いますが,大きな力によって確立されたこの流れはきっとしばらく変わることが無いと思います。
なので,就活生はこの流れを乗り越えるなり,受け流すなり,流されるなりして,なんとかやり過ごしてほしいです。
面接官と応募者の関係について
映画「何者」の劇中で面接官が就活生に
「あなたという人物を1分間で表現してください。方法は問いません。」
みたいな感じのとても難しい質問をしている場面がありました。
私はこれを見て,すごく上から目線で偉そうな質問だな,と思いました。質問してる本人は,そんなことスラスラ答えられるのか?とも思いました。
そもそも私は企業の採用担当と応募者の関係は対等であるべきだと思っています。企業が働く人がほしくて求人を出し,応募者はそれを見て雇ってほしいと思って面接に行ってるわけです。両方相手にお願いする立場なので対等であるべきだとは思うんですけど,映画を見て,今の就活生は明らかに面接官よりも下の立場にあるような気がしました。
これも就職サイトによる応募者が増えたことが原因だと思います。ライバルが増えたことで就活生は下手に出るような感じになり,募集者が増えて大人数から少数を選ぶ立場になった面接官は,偉くなったような気持ちになるのかもしれません。
こんな質問をする面接官は実際にはいないのかもしれませんけど,実際にいたとしたら面接を受けた人のその企業のイメージが悪くなると思うのでやめた方がいいと思いました。
まとめ
今の就活のシステムは一部の人が得をするだけで,就活生はとてもつらい思いをすると思います。
これからの就活がいつから始まるのかもう分かりませんけど,これから就活を控えている人は,他人に見栄を張るための就職先ではなく,自分の心と体を第一に考えてほしいと思います。採用活動をしている企業は数えきれないほどあっても,個人の健康な心と体は一つしかないので,大企業で働くことよりもよっぽど価値があることだと思います。
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