アポロ13
1995年公開のアメリカ映画。日本でも同年公開。主演 トム・ハンクス。監督 ロン・ハワード。
Film (C) 1995 Universal Studios. All Rights Reserved.
月への有人飛行計画の一つであった、アポロ13号に参加していた宇宙飛行士たちの、実話を基にした物語。
あらすじ
1969年7月20日
アポロ11号計画に参加したニール・アームストロングは、人類史上初めて月の表面を踏みしめた。
アポロ11号のバックアップクルーであったジム・ラヴェルは、その様子を地球のテレビで見ていた。彼はこれまで何度も宇宙に行ったことがあり、アポロ8号では月を10周もしたことがあるベテランだった。当然、ニールの様子を見ていて、自分も月面を歩きたいと考えていた。
そして、そのチャンスはすぐにやってきた。
ジムは月着陸船操縦士のフレッド・ヘイズ、司令船操縦士のケン・マッティングリーと三人でチームを組み、アポロ14号に搭乗する予定だった。しかしながら、13号に搭乗予定のクルーが病気になったため、ジムのチームの三人が繰り上がって13号に乗ることになったのだ。
13という数字には、ジムの妻もマスコミも不吉に思っているようだったが、彼らは気にしていなかった。だが、打ち上げ二日前に問題が起きた。バックアップのメンバーが風疹にかかったため、免疫がないケンは宇宙へ行けなくなってしまったのだ。仕方がないので、ジムはケンを予備の司令船操縦士、ジャック・スワイガートと交代させて、月へ向かうことにした。
1970年4月11日
アポロ13号は無事に発射され宇宙空間にたどり着いた。
大きな問題もなく計画通りに月の軌道に乗った。すべて順調かに思われた。
しかし、4月13日。彼らが地球から飛び立ってから3日目に事故は起こったのだ。
月への上陸が目前に迫っていた頃、ヒューストンからジャックに、酸素タンクを攪拌するように命令があった。彼は命令通りに、攪拌のスイッチを押した。すると、衝撃と爆発音が船内に響き、直後に警報音が鳴り始めた。
飛行士三人が事態を確認すると、すぐに船内から酸素が流出していることが分かった。さらには電力も低下しており、司令船はもはやほとんど機能を維持できない状況になっていた。ヒューストンは酸素漏れを止めるため、彼らに燃料電池の反応バルブを閉じるように命令した。それはクルーの生命を優先し、月着陸を諦める決断だった。
ジムはためらいながらその命令に従ったが、酸素漏れは止まらなかった。
これ以上司令船の電力を失うと、地球へ再突入ができなくなる。そのため彼らは緊急事態として、月着陸船を操縦して地球までの道を進むことになった。
しかし、二人乗りかつ着陸用の月着陸船は、三人が乗って地球に帰還することを想定されて作られてはいない。その後も問題は次から次へと発生していった。
全世界の人間が見守る中、地上の人々と協力し生き残ろうとした彼らの運命は……。
感想(ネタバレあり)
ものすごく濃い映画でした。
簡単に考えればとても分かりやすいものですが、ちゃんと理解しようとすればきっと、何日もかかるほど深いものだと思います。いろんな楽しみ方ができそうな映画だと思いました。
娯楽映画としての見方
単純に、宇宙飛行中に起こる困難にみんなで立ち向かいながら、地球に帰還する彼らを応援するという、娯楽映画的な見方をすると、とても分かりやすくて良い話でした。
誰も責任を押し付けたりはしないのに、ヒューストンにいる人たちも、宇宙の三人を地球に帰還させるために、まるで自分のことのように一生懸命になっている姿がかっこよかったです。
特に、エド・ハリスさんが演じていたジーンが良かったです。周りのみんなが予想外の事態に慌てふためいている中、常に冷静に逃げることなく解決方法を探すことだけを考えていました。いいリーダーでした。ケンもワイルドな感じがかっこよかったです。
ヒューストンの人たちや宇宙飛行士たちが、劇中で難しい言葉をたくさん使いますが、ジムが子供に説明する場面や、ニュースとして視聴者に説明する場面を挟んでいたので、宇宙のことをあまり知らない私でも、何となく状況を把握することができました。
むしろ、彼らがよく分からない言葉を使っていたことが、私にとっては緊張感を高める一つの要素になりました。分からない言葉を使っている頭のよさそうな人たちが、爆発の後でめちゃくちゃ慌てている様子を見て、これヤバイ状況なんじゃないかと確認することができました。なので、最後のみんなで見守るシーンは、自分も実際のその様子を見ているかのように緊張しました。
実話としての見方
実話を基にした話として、史実や実際の事故について比べながら見るという見方もできると思います。詳しい人なら、そうでない人よりもずっと深く楽しめる作品だと思います。
しかし、歴史から科学的なことまで、劇中で使われている言葉や物の幅が広すぎて、知識ゼロから調べながら見ていると、きっと何日もかかるほど難しいものになると思います。この映画を観た人の何パーセントが、登場人物が話していたことをちゃんと理解できていたのだろうかと思いました。私は半分も理解できませんでした。
例えば終盤のシーンでケンが次の言葉を口にします。
最終速度はおそらく、秒速1万743メートルになるだろう。
『アポロ13』でのケン・マッティングリーのセリフ
平然とした声で、当たり前のようにこう言います。
それが速いのか遅いのか、それとも平均的なのか、知識が無い私にはまったく分かりませんでした。他のシーンでは、ジムたちがうまく言い換えてくれたりしていますが、その時の彼らはコメントする余裕もありませんでした。地球の日常から考えると、ものすごく速い気がしますが、慌てている様子もないんです。
史実をよく知っている人や、宇宙に詳しい人なら、なるほどと思えることかもしれませんし、調べればおおよそのことは分かることかもしれません。こんなシーンが何度かあります。
ただ、冷静に言っているから異常ではないのだろうと、何となくで見ていても楽しめるのが、この映画の良さだと思います。私はより多くの人が楽しめるものが良い映画だと思うので、こんな風にいろんな楽しみ方ができる作品はとても好きです。
みんなで一生懸命工夫して協力して、三人とも生きて帰れたから全てOK。難しいことは考えなくても、ハッピーエンドには変わりありません。
歴史上の人物について
この映画にニール・アームストロングという、教科書にも載るような歴史上の人物が出ていましたが、ジムなどが彼のことを語っている様子を見て、当たり前ですが、彼も普通の人だったのだなと思わされました。私は歴史に残るような人物は、どうしても自分とは違う特別な人間として考えてしまいます。でも違うのだと改めて思いました。
宇宙から生きて帰ってきたジムに、地球で待っていた家族やサポートしていた何千人の人がいたように、きっとニールの時も、彼を裏で支えた名前が残っていない人たちがたくさんいたのでしょう。どんな偉人も、有名なことを成し遂げる前は、ニールやジムのような普通の人で、いろんな人の助けや積み重ねがあって、初めて有名になったのだと思います。
アポロ計画や、宇宙飛行士について調べていて思いました。
歴史の年表などで見ると、それは一つ一つが独立していて、まるでそれだけが単体で起こった出来事や、その人の力だけで有名になったかのように感じます。でも実は、その裏ではいろんな出来事が繋がっていて、数えきれないほどの人が関わっていました。これまでの全てがそうだと考えると、歴史ってとてつもなく壮大です。
成功したことはもちろん、この映画のように失敗したことでさえも、何千人もの人が関わっていて、この失敗でさえも次の成功への糧になっています。
どんな災いが幸運に転じるか計り知れない
『アポロ13』でのジム・ラヴェルのセリフ
劇中のインタビューのシーンでジムが言っていました。
本当に何が役に立って誰が有名になるかなんて、名が残る前にはまったく分からないものなのでしょう。だからこそ、歴史って本当に面白いものだと思います。
いつか有名になる人は、もしかしたら自分の周りにいるかもしれません。本人はいなくても、そういう人の手助けをする人が、今の自分の周りにいても全然おかしくないと思います。だから、これからはもっといろんな人に優しくしようと思いました。どんな幸運に転じて返ってくるか分かりませんからね。
まとめ
史実に沿った深い見方もできれば、娯楽映画としての見方もできて、いろんな人が楽しめる良い映画だと思いました。個人的には足を引っ張る人がいないことも良かったと感じました。ケンの代わりにジャックが入った時は、ジャックが大失敗する流れかと思ってひやひやしましたが、ちゃんと最後までしっかり仕事してました。昔の宇宙船の操縦士のプレッシャーがすごそうな描写にも驚きでした。
ジムを演じていたトム・ハンクスさんとケンを演じていたゲイリー・シニーズさんは、『フォレスト・ガンプ』にも戦友役で出ているので、地上と宇宙で彼らが交信して協力し始めた時には、ちょっと感動しました。
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