ドラえもん のび太の月面探査記
2019年公開の日本のアニメーション映画。映画ドラえもんシリーズ第39作。ゲスト声優 皆川純子、広瀬アリス、吉田鋼太郎。脚本 辻村深月。
(C) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019
月にウサギがいるというのび太の説をみんなに聞いてもらうため、月の裏側にウサギ王国を作ったのび太たちが、月に住む種族と出会い、彼らを救おうとする話。
あらすじ
ある日、月面を調査していた日本の探査機が、そこで白い影を捉えたことが大ニュースになった。
のび太の通う学校では、宇宙人かレンズの汚れのどちらか、ということで議論になっていたが、のび太の考えた説はそのどちらでもなかった。
のび太は、その影は月のウサギだと言い切ったのだ。しかし、みんなは大笑いしてそれを信じようとはしなかった。
家に帰ったのび太は、そのことをドラえもんに相談した。するとドラえもんは、長年信じられていた異説を現実にできるひみつ道具『異説クラブメンバーズバッジ』を使って『月の裏側には空気があって、生き物が住むことができる』という異説を現実にすることを考えた。そうして、月にウサギがいる環境を作り、のび太の説をみんなに信じ込ませることにしたのだ。
バッジをつけている間だけその異説の世界に行けるようになった二人は、月の裏側にムービットと名付けたウサギと、彼らが住む場所を作った。
異説の世界の月でムービットが王国を作り上げたころ、ドラえもんとのび太はジャイアンたちにバッジを渡して、彼らを月に連れていこうとした。だがその直前に、のび太のクラスに転校してきた少し不思議な雰囲気を持つ少年ルカが、自分も連れて行ってほしいと彼らに声をかけたのだ。
のび太たちは彼を快く受け入れて、6人で月へと向かった。
そこにはムービットたちによる夢のような楽しい王国が築かれていた。彼らはそこでしばらく楽しい時間を過ごしたが、あるきっかけでのび太たちはルカの正体を知ってしまう。
彼は現実の月に住む、エスパルという不思議な力を持つ生き物だったのだ。のび太たちはルカの仲間のエスパルにも会い、すぐに彼らと友達になった。
しかしその後、ルカ達エスパルの力を悪用しようとする悪者が彼らに襲い掛かってきた。そして、のび太たちは無事に地球に逃げることができたが、ルカ達は捕まってしまった。
地球に戻ったのび太たちは、ルカ達を助けるために再び月に向かうのだが…。
感想(ネタバレあり)
ドラえもん映画としてのお約束を押さえたうえで、深いメッセージも描いていて、全体的に上手くまとまっていた映画でした。ドラえもんファンで直木賞作家の辻村深月さんが脚本を書かれたというのも、その安定した展開を観れば納得できました。
人気の小説をたくさん書かれてきた作家さんなだけあって、その世界観はとても魅力的でした。
特に、物語序盤は一気に引き込まれました。地球と月などについての定説を本格的に説明した後の、異説によって作られた世界は、本当に月の裏側がこんな風であったらいいなと思わせられるようで、見ていて楽しかったです。
現実の問題について語った後で少し不思議な世界を見せる展開は、これまでのドラえもん映画で何度も観ましたが、今回は現実とSF部分がとても密接につながっていて丁寧に描かれていたので、異説の世界がすごく良いものに見えました。
この映画のメッセージの一つであった、多くの人とは違う考えや想像力も大事というのは、不思議な小説を書かれてきた作家さんらしいと感じました。
のび太が序盤で言っていた「大人は月にウサギがいるって言ってたのに、いつからいないことになったんだよ~。」という言葉は、面白いと同時に、信じるものをバカにされて少し可哀想にも思えました。
そしてそれを受けてからの終盤の、想像力に対するドラえもんの熱いメッセージには、私はとても感動させられました。歴史について語っていたのでしょうけれど、異説を唱えていたのび太の考え方を大事にしているようにも聞こえました。
それらに加えて、子供の成長や家族なども描かれていて、その都度私は感動させられたので、大人が観てもおそらく楽しめる映画だと思います。
ドラえもん愛について
全体的にドラえもん愛にあふれていた映画でした。現実の定説や、これまでに出てきたひみつ道具を使った不思議な世界、友情やハラハラの冒険など、ドラえもん映画のお約束がとても丁寧に描かれていました。
私はその中でも、のび太たちのキャラクターの描き方が好きでした。
のび太もジャイアンもしずかちゃんもスネ夫も、みんなそれぞれの特徴や良いところが何度も描かれていました。私はみんなが宇宙船で月への旅に出る時の一連の流れが好きです。
親に隠れて危険な旅に出ようとするみんなの姿は、それぞれ少しずつ違っていて、一人一人への愛を感じるシーンでしたし、彼らの成長も感じて感動しました。
特に、スネ夫がなかなか勇気が出せずに遅れてきたシーンで、ジャイアンが一生懸命に「もう少し待ってくれ。まだスネ夫が来てない」とドラえもんに頼んでいたところが、私はとても心に残りました。
やはり劇場版のジャイアンは、テレビとは別人のように友達思いの熱い男でした。私は毎回のように、そのギャップに驚かされています。
個人的には、出木杉くんが出てきたことも嬉しかったです。月にウサギがいるというのび太の異説を、バカにしたり笑ったりせずに、やんわりと否定していた優しい子でした。しかし、月には連れて行ってもらえないという展開もお約束で、少し可哀想ですが安心しました。
その他にも、ひみつ道具の使い方などのいろんなところから、本当にドラえもんが好きな人が作ったのだろうと、自然に思わされる映画でした。
映画に直接関係はありませんが、公式サイトに載っていた辻村深月さんとむぎわらしんたろうさんのコメントも、とても作品愛にあふれていて、ドラえもんファンの私には、これ以上ないくらいに響きました。
自分が好きな作品を、作っている人たちが大事に思ってくれているというのは、本当に嬉しいことだなと実感できました。
正直、メンバーズバッジの効果や、最後にそれを手放した理由は分かりづらかったですし、終盤はどこかで見たような展開もありました。ですが、全体的には綺麗にまとまっていて、作品愛を感じるような演出も多かったので、私は満足でした。
まとめ
ドラえもんファンで直木賞作家の辻村深月さんが脚本を書かれているだけあって、ドラえもん映画のお約束を押さえながら、綺麗にまとまっている映画でした。意外と深いメッセージも描かれているので、大人が観ても楽しめると思います、ドラえもん映画を観慣れている人にとっては、とても安心できる作品愛のある演出でした。
ゲストキャラクターもかっこよかったですし、ゲスト声優の吉田鋼太郎さんもとても強そうで良かったです。
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