英国王のスピーチ
2010年公開イギリス・オーストラリア映画。日本では2011年公開。出演 コリン・ファース、ヘレナ・ボナム=カーター、ジェフリー・ラッシュ。監督 トム・フーパー。原題は『The King's Speech』。
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国民へのスピーチが大事な時代に生まれ、吃音症に悩んでいたイギリスの王子が一人の言語療法士に出会い、彼と共にスピーチの練習をしていくことで、王として成長していく話。第二次世界大戦時のイギリス国王、ジョージ6世の実話を基にした物語。
あらすじ
舞台は第二次世界大戦前のイギリス。
昔なら立派な軍服を着て馬にまたがっていれば良かったイギリス王室も、ラジオ放送などが存在するこの時代には、国民に様々なスピーチをして彼らから信用を得る必要があった。
しかし、世界人口の4分の1を統治していたジョージ5世の息子アルバート王子は、幼いころから吃音症のため、人前で話すのが苦手だった。だが、ナチス政権とソ連共産党の脅威が迫っていた当時の状況において、彼がスピーチをしなければならない場面は少なくなかったため、やらないわけにもいかなかったのだ。
アルバートはこれまで何人もの医師に診てもらっていたが、彼の吃音を治せるものは一人も現れなかった。
そしてある日、アルバートはライオネル・ローグという名の言語障害専門家を訪ねた。
ライオネルは、それまでアルバートが接してきた医師とはまるで違う馴れ馴れしい態度で彼と話し、型破りな治療法を行った。アルバートは初めは彼を信用できなかったが、彼の治療法はその後、驚くべき効果を示したのだ。
それからアルバートは、ライオネルの下で話す練習を始めた。
アルバートはそこで練習しているうちに徐々にライオネルと親しくなり、それまで誰にも話せなかった過去のことや王室のことを相談していく仲になった。
その後、ライオネルの過去や王室に関する問題を解決したアルバートは、ジョージ6世としてイギリス国王に即位した。
そして1993年9月3日。イギリスとドイツは戦争状態に突入し、第二次世界大戦が始まった。ジョージ6世は、すぐに国民を鼓舞する大事な開戦スピーチを任されたのだ。
スピーチ原稿の一言一言について細かくライオネルの指導を受け、ジョージ6世はマイクを前に緊張しながらそれを読み始めたのだが…。
信頼できる友とイギリス全国民に見守られながら行った英国王ジョージ6世のスピーチの結果は…。
感想(ネタバレあり)
吃音に悩みながらも、国民のために一生懸命に文章を読んでいたジョージ6世と、彼を包み込むように優しく見守るライオネルの姿が感動的でした。
国王としての責任やそれに伴った吃音症の悩みなどは、私が思っていたよりもずっと重かったですが、二人がエリザベス妃と仲良く体を動かしていたシーンなどは、楽しそうで微笑ましくもありました。
すごく盛り上がるシーンがあるような映画ではありませんでしたが、最後のスピーチはとても緊張感があって、終わった時には安心して観終えることができる映画でした。
しかし、私はライオネルが出てくるスピーチ関連のシーンは好きでしたが、王族兄弟の話は少し退屈に思えました。おそらく私がイギリス王室の歴史をあまり知らないからだと思います。
ストーリーについて
上に書いたようにすごく盛り上がる展開などはありませんでしたが、ライオネルの経歴を知らされたときにはとても驚きました。あまりにも意外なことだったので、さすがに脚色された設定だろうと思い込んでいたら、観終えた後で本当にそのまま存在していたことを知って、さらに驚きました。
その点も含めて、資格などは関係なく困っている人に耳を傾け、全力で救おうとしていた素晴らしい人でした。そんな人が本当にいたことが一番すごいです。
また、ジョージ6世のスピーチと途中で流れたヒトラーの演説が、全く違っていたのも面白かったです。
道徳心に欠けた男と劇中で言われていたヒトラーは、原稿を持たず強気な雰囲気でスラスラと演説していましたが、心優しくて国民思いのジョージ6世は、ライオネルの指導を受けて、すべての単語に赤ペンでチェックを入れた原稿を見ながら、ゆっくり一生懸命に話していました。
ヒトラーの方が一般的な演説の技術があって上手いのかもしれませんが、人を感動させたり心を動かすためには、技術だけではなくて心も同じくらいの力を持つことがあるかもしれないと、改めて感じました。
言葉が詰まることを良くないと言っているわけではなかったのも好きでした。
劇中でエリザベス妃は「ステキな吃音のおかげで幸せになれそう」と言っており、ライオネルも「間は長くてもいい。演説に厳粛な雰囲気が出る」と言っていました。
スピーチをするのが仕事のイギリス国王としては、詰まりすぎるのはあまり良くないことかもしれませんが、他人が欠点だと思っているところをそんな風に良く捉えられて、さらにそれを相手に伝えられるのは、とても素晴らしいことだと思いました。見ていてとても温かい気持ちになれて良かったです。良いところも悪いところも捉え方次第だと思います。
俳優さんについて
吃音で悩むジョージ6世を演じていたコリン・ファースさんの、とても真摯な演技には胸を打たれました。特にラストシーンのスピーチは、その一生懸命さが伝わってきて、私もすごく緊張しながら応援するように見ていました。
ライオネルを演じていたジェフリー・ラッシュさんの優しい笑顔も好きでした。最後のスピーチの場面では、一生懸命原稿を読むジョージ6世の目の前で、ずっと優しくサポートしていたところがとても良くて、その関係性にも感動させられました。
私の中では、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のヘクター・バルボッサで馴染んでいた役者さんだったので、あんなに分かりやすい海賊の役からの、この優しい役との差に驚かされました。バルボッサも確か英国王に仕えていたと思うので、その点も面白かったです。
まとめ
吃音に悩むジョージ6世と、彼を優しく指導していたライオネル・ローグとの関係性に感動しました。特に最後のスピーチのシーンでは、ゆっくりと真摯に話すジョージ6世の姿がとても良かったです。
ジョージ6世の周りの人間がとても優しくて、終わった時には安心して観終えることができる映画でした。イギリス王室の歴史をあまり知らない私には響かない場面もありましたが、メインのスピーチに関わるエピソードはとても好きです。
ジェフリー・ラッシュさんの海賊役との違いがものすごくて、名優の実力を思い知らされました。
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