夜は短し歩けよ乙女
2017年公開の日本のアニメーション映画。主演 星野源、花澤香菜。監督 湯浅政明。英題は『The Night Is Short, Walk on Girl』。キャッチコピーは、『こうして出逢ったのも、何かのご縁』。
(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会
一年前に一目ぼれした後輩に対して、なるべく彼女の目にとまるように、彼女を追いかけ続けた男の話。そんなナカメ作戦と呼ぶ行為を実行していた男が、新たな段階に進もうとしていた日の、不思議な一夜の物語。
あらすじ
一年前、同じクラスの後輩である“黒髪の乙女”に一目会うなり、魂をわしづかみにされた“先輩”。彼はそれ以降、なるべく彼女の目にとまるように心がけてきた。頭文字をとってナカメ作戦と名付けられたその行為は、もはや偶然と呼ぶべき回数をはるかに超え、運命を感じざるを得ないほどの回数に達していた。
一年間外堀を埋め続けた先輩は、ようやく重い腰を上げて、彼女との関係を新たな段階に進めようとしていたのだが、目の前のオモチロイことに興味津々な乙女は、彼の思いには気づかずに、あらゆる場所に一人でどんどん進んで行ってしまう。
彼らはまるで一年のような一晩を過ごすうちに、先斗町、古本市、学園祭と場所を変え、行く先々で不思議な騒動を巻き起こす。さらには、先輩の友人である学園祭事務局長、半年間パンツを履きかえていないパンツ総番長、自称天狗の樋口、金貸しの李白など、個性的な面々を巻き込んで、その夜は誰も予想しない展開になっていくのだった。
奇妙な一夜が明けるとき、すれ違い続けた彼らの運命は……。
感想(ネタバレあり)
乙女が先輩への気持ちに気づいていく様子が可愛くて良かったです。
それまですれ違ってばかりで、無駄に終わっていたかと思っていたナカメ作戦などの先輩の行動が、最後には無駄ではなく彼女の心に残っていたと分かった時には、思いが伝わって良かったなと安心できました。
特に、最後の先輩の家での場面は最高でしたね。
それまでは、オモチロイことに無我夢中で、恥ずかしげもない発言をしていた乙女が、
「たまたま通りかかったものですから」
と先輩が言っていたことと同じようなことを言って、彼に会いに来たことをごまかすところとか、
「私も風邪をひいたかもしれません」
と、顔を赤くして恥ずかしそうに言うところが、ギャップ萌えですごく可愛かったです。
乙女の声は声優の花澤香菜さんが演じていましたが、天真爛漫な時の声と最後のシーンでの声の変化がとても良くて、最後の最後に驚かされました。
対比について
同じことについて語っているのに、それについての意見は話す人によって全然違う、という場面がいくつかあって、私はその対比が割と印象に残りました。
例えば、乙女と李白さんの飲み比べの場面で、『人生は孤独で空虚で奪い合いだ』と言う李白さんに対して、乙女は『豊かで楽しくて与え合い』と言っていました。古本市の場面では、古本屋の店主が本のことを『人の間をめぐり、何度もよみがえりながら人と人をつないでいくもの』と言っていた一方で、樋口さんは『ただの紙束にインクが染みついたもの』と言っていました。他にも、古本市や学園祭について、乙女がポジティブな意見を思っている状況で、先輩は真逆のネガティブな意見を思っている場面がありました。
同じ場所で同じものを見ていて、ほぼ同じ状況なのに、考え方が違うだけでこんなに違った受け取り方をするのは面白いなと思いました。考えが真逆とも思えた二人が、近づいた後の最後の場面では、同じことを思っていたというのも、ロマンチックで良かったです。どちらがどちらに近づいたのか、それともお互いに近づき合ったのか、どれかは分かりませんが、同じ考えを共有できるというのは良いことだと思います。
そして、劇中のいろんな意見の中でも、私は乙女の目線に驚きました。彼女のようなポジティブな人にとっては、世界はこんなにも面白いものなのかと。私はどちらかというと、先輩のように、世の中に対しての不平不満や愚痴ばかりを考えてしまうタイプなので、彼女を見ていて少し反省しました。目の前にある状況を楽しめるかどうか、というのは、自分の考え方次第かもしれません。私もたまには、彼女のように目の前の出来事を否定せずに受け入れてみようかなと思いました。
ただし、他の人も乙女ほど前向きな人ばかりではありませんでしたが、割と楽しそうでしたね。李白さんは途中悲しいことを言っていましたが、古本市で先輩や樋口さんに激辛の火鍋を食べさせる時は楽しそうでした。樋口さんもフラフラしている姿は楽しそうでしたし、先輩も乙女を追っている時は生き生きして見えました。
物事の楽しみ方は人それぞれです。私も自分に合った楽しみ方をこれから探していこうと思います。
原作に関して
私はこの映画の原作をだいぶ前に読んだことがあるので、それと比較して気になったことを書いていこうと思います。
この映画では一晩のうちの四つの場面を描いていましたが、原作では普通に彼らが過ごす四季を描いていたと思います。
そのため、映画よりも展開が、かなりゆっくりで丁寧だったイメージがあります。韋駄天こたつと偏屈王の関係性を推測する余裕があったり、鯉が落ちてくるシーンは、もう少し丁寧に描かれていた気がします。その点は、映像化するためには仕方のない部分ではありますけれどね。
その代わり、ライブ感というか、疾走感みたいなものは増していた気がします。考える余裕がないからこそ、勢いで楽しく見られました。ミュージカルや、その他のアニメ特有のコミカル描写もそれを引き立たせていたように思います。
それから、実際に声を聞くと、やっぱりキャラクターへの愛着は、本よりも湧くかもしれません。私個人の意見ですが。
単純に、この映画は声優さんがみんなよくキャラクターに合っていたというのもあります。花澤香菜さんの声が可愛いのは上に書きましたが、星野源さんももちろん良かったです。途中までは本当に卑屈そうな声を出すのに、吹っ切れた時の声は爽やかで良かったです。
しかし、星野源さんがどれだけ爽やかな声を出していたとしても、爽やかさという点においては、学園祭事務局長の神谷浩史さんが一番でしたね。原作を呼んでいた時からかっこいい感じをイメージをしていましたが、神谷さんの声が合わさるとめちゃくちゃかっこよかったです。誰もがうらやむ美貌の持ち主で、声もかっこよくて頭も良くて権力もある。普通こっちが主役じゃないかと思いました。
私が初めて原作を読んだとき、この映画の原作者である森見登美彦さんの『四畳半神話大系』に出ていた樋口さんが、こっちにも出てきたことに、とても驚いたことを覚えています。『四畳半神話大系』もこの映画と同じ制作陣でアニメ化されていて、とても面白い作品なので、この映画が気に入った方は、見たら気に入るかもしれません。
まとめ
原作と少し異なる点もありましたが、良いところは残しつつ、アニメーション独特の表現で、面白くまとめられていました。声もいろんなタレントさんが演じていますが、どれもすぐにしっくりきて良かったです。
面白い作品というのは、監督や脚本、原作に声優といった、いろんな優秀な人の縁がきれいに繋がってできるものなのだろうと思わされました。
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